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あの後、俺は恐怖で体が動かなくなってしまった自称自殺女の腕を掴むと無理矢理力で引き上げた。
今度は腰が抜けて力が入らないと言う女をご丁寧に担いで柵を越えて安全な場所へと運んでやっていた。
それからさっきまで俺が寝そべっていたベンチに座らせると女がまた泣きながら強引に抱きついていきたのであった。
「ひぐっ…あっ、鼻水がぁ…」
「…気にするな」
そしてこれがご覧の通り…今の俺と女の状況である。
俺の胸の中で豪快に鼻水垂らしながらぐりぐりと顔を押し付け泣きじゃくる女。
今すぐ振り解いて帰りたいところだが、完全にホールドされており…仕方なく抱き締められている状況。
制服が鼻水でベッタリグッチョリでフィーバーな訳で…正直、不快感が尋常じゃない…。
「おい、女…お前―――」
「私、女でもお前っていう名前じゃないもん…ひぐっ」
ほぅ…この状況でそれだけ強気な事を言えるとは、中々いい度胸をしている女だな。
「じゃあ、名は…名は何という? 」
軽いパニック状態に陥っていた女を刺激しないようになるべく優しい口調で話しかける。
「…明日香…九条院明日香よ…ひぐっ」
鼻声で聞き取り辛かったが、知らん名前だった。
興味のない人間の名前など、端っから覚える気もない。
仮にこの女が同じクラスだったとしても、同じ結果だな。
正直、その場に転がっている石ころぐらいにしか認識していない。
つまり、皆…同じにしか見えない。
まぁ、人間一皮剥けば皆同じ顔だ…別に間違ってはいないだろう?
いや、そんなことはどうでもいいんだよ…。
「何故、お前が自殺しようとしていたのかは俺にとってはどうでもいいことなんだが…他人様に迷惑をかけては駄目だと親から教わらなかったのか? 女よ」
制服の不快感や女に引っ付かれているせいで、俺の怒りのボルテージも限界にきていた為、若干、怒気を秘めた声でいってしまった。
「ぶぴぃ~っ!…ヒグッ…アンタ…何を聞いてたのよ…私は女でもお前でもない!…明日香よ…バカっ…ヒグッ」
最初に感じた女の威勢の良さが戻ったのは良いことだと思うが…
鼻をかみながら答える女生徒…いや、それティッシュじゃなくて俺の制服なんだが…。
「…汚らしい…面をしていやがるな」
女の面も…制服も…俺自身も。
そんな状況で俺はただひたすらボヤくだけしかはなかった。
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