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「アンタ…私のこと知らないの?」
女は俺の胸元に顔を埋めていた状態から、俺を見上げるように顔を覗かせて鼻声混じりで呟いた。
しかし、何を言い出すかと思えば…有名人気取りのアホなのか、この女は。
「俺は、自分が気に入った人間以外覚えない主義でな。悪いが…貴様のような危険人物も対象外だ。」
平和大国日本と言う安易な言葉にこの俺も油断していたというべきか…?
まさか帰国して一年目でこんな狂人女に出会うとは…俺もまだまだ危機察知能力に改善の余地があるようだ。
「…えっ、私、九条院よ?」
「だから、どうした?」
「一応、生徒会長やってるんだけど…」
「…嘘吐きは泥棒の始まりだ…と、親から教わらなかったのかね?」
「いや、本当だから!」
もしや…この女、何も知らない事をいいことに自ら悲劇のヒロインを装って騙す気でいるのかもしれない。
新手の詐欺か?
もしくは、怪しい宗教関係…
「じゃ、じゃあ! この学園の名前は?」
まさか…っ!? これは知らず知らず洗脳を施されているのか?
この学園に通っている者が、学園名を知らないはずがないだろうに…
近年、相手の弱みに付け込み…マインドコントロールを施し、金品を貢がせるといった犯罪行為が増加していると聞くが…
だが、生憎…この俺にそんな死角は存在しない…。
「残念だったな…。俺に心の隙など存在しないのだよ」
「…………ハァ? 何言ってんのアンタ?」
さぁ、本性を現せ…女よ。
「…悪しき心よ…現れたまえ…」
「何ふざけてんのよ…ちゃんと聞いてるの? 私は生徒会長の“九条院明日香”よ?」
詐欺師にしては大それた名だな…だが、その方が信憑性が増すという訳か…。
九条院…は、この学園から名を取ったのか…明らかに偽名だとバレるだろうに…俺の態度に焦ったのか?
だが、しかし…生徒会長か…。
いや、待てよ…?
『楓ちゃん知らないの? この学園の生徒会長はちょ~う有名なんだぜ? 家柄、性格も容姿も完璧、オマケにスタイル抜群で学園長の孫娘でもある…名前は――』
数ヶ月前の事を頭に巡らせながら、制服の胸ポケットに付いているネームプレートに目を向ける。
九条院…
明日に香…?
アシタカと読むんだろか?
いや、そんなことはどうでもいいが…この女が生徒会長だとっ?
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