お嬢な会長と朴念仁な変人

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    時を同じくして 町外れに今時珍しい江戸時代から続く古風な一軒家がある。 広々とした敷地を瓦塀で囲まれ門があり、まるで神社のような庭には岩で出来た大きな池がある。 そんな家の玄関前で男女二人が異様な空気の中、見つめ合っていた。 「なぁ…アリスよ。そろそろ家に入れてくれないだろうか?」 「……嫌」 かれこれこれだけの会話が三十分は続いている。 相変わらず…頑固な奴だ。 こうなったアリスを宥めるのは容易ではない。 「悪かったとは思っている。だが、別に疚しいことをしていた訳じゃないんだ。寧ろ、善いことしていたんだ」 「……知らない」 「…やれやれ、俺はお前の愛する兄だぞ? そしてお前は俺の愛する妹とだ。そんな二人が争うなどあってはならないことだとは思わないか…?」 「……思わない」 「…けど、…愛している。」 「そうかそう――」 「…殺したいほどに」 …やれやれ、変な日本語ばかり覚えおって…でも、兄はどんな形であれ、お前に愛されているだけで嬉しく思うぞ。 彼女の名前は、神崎アリス。 名前から分かるような日本人ではない。 見た目は透き通るような碧い目…輝く金髪頭のアメリカ人を思わせる風貌をしているが、彼女はイギリス人とアメリカ人の間に生まれた子どもであり、俺とも血は一切繋がっていない…つまり、義理の妹ということだ。 母は俺を産んで直ぐに他界。 俺は生まれは日本だが、高校に入る前は海外を転々としていた。 俺の親父…神崎響は世界を跨ぐ有名な医師であり、神崎家は江戸時代から代々続く医者の家系でもある。 そんな親父に連れられ、世界のありとあらゆる場所を目にしてきた。 そんな中、親父がボランティアでアフリカを訪れた祭に、MSF【国境なき医師団】に参加していた白人の女性…つまり、アリスの母親に出会い、お互いに妻と夫を若くして亡くしたという縁もあり、フィーリングが合ったのかそのままゴールイン…再婚したわけだ。 その連れ子だったアリスも母親が医者であり仕事がら世界を転々としていたようで、同年代の人間と触れ合う機会が余りなかったせいか、感情を表に出さない人見知りの激しい子どもであった。 一緒に住むようになった当初も、アリスは相変わらず人見知りで母親の後ろに隠れる毎日で片時も離れようとはしなかった。    
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