お嬢な会長と朴念仁な変人

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    翌日の朝、 親父達は仕事の関係でしばらく家を留守にするらしく、アイリスは心配そうにしていたが、親父は俺にアリスを押し付けて旅立っていった。 学校関係は仕事がら転校が多いので通信教育を受けているから心配無用である。 元々、掃除、洗濯、料理などは物心ついた時から死んだ母の代わりにしていたので生活するだけなら俺一人で問題ない。 医者という奴は、時間が不規則で家事などはする暇もなかったらしく、親父もアイリスも家事能力が無いに等しい。 ほっとくとインスタント系の食事になってしまったり、家中がゴミだらけになりかねない程、深刻な状態であった。 俺は自ら勉強し家事を覚えなければならない状況だったわけだ。 そして、しばらく俺とアリスだけの生活が始まった。 アリスは母という支えを一時的に失ってしまったので、時々、声を押し殺して泣いている様子だった。 それを見かねた俺は、できるだけ最小限のコミュニケーションを取ろうと考える。 「…アリス、俺は楓だ」 これが、俺が初めて話し掛けた言葉だった。 アイリスから事前にアリスは日本語は解らないということを聞いていたので英語で話し掛けた。 一時期、アメリカに長期間滞在していた事があったので日常会話と多少の読み書きは親父に習っていたから問題なく話せる。 「…………」 いつもと同じく、常時無言だが俺は気にせず出来る限り優しい口調で話を続ける。 「俺は正直、お前のような女…いや、女自体は嫌いだが…」 俺の言葉を理解したのか嗚咽を漏らしながら涙を流す。 「だが…お前は、俺の妹…家族だ。つまり、お前は女だが、俺にとっては特別な存在だ。勿論、お前の母親のアイリスもな」 瞳に涙を浮かべた状態で顔を上げ、俺を見る。 この時、初めてお互いの顔をハッキリと見たのかもしれない。 涙を含んだその瞳は、鮮やかで透き通るような美しい碧色で不覚にも美しい…いや、可愛らしい少女だと思えた。 「…うぐっ…ゴホンッ!…不本意だが…俺は、お前の兄になったというわけだ。 理解したか?」 少しだけうろたえながら、そう伝えてしまう。 「……………」 そして、アリスは俺の言葉に返答するように小さく頷く。 これが初めてコミュニケーションが成立した瞬間だった。    
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