お嬢な会長と朴念仁な変人

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  泣き疲れたのか、俺の腕の中で穏やかな寝息を立てながら安心しきった寝顔で寝始めていた。 この子は今まで母親以外に気を許したことがなかったのだろう。 そんな中、急に再婚が決まり、見ず知らずの親父と俺が家族になり、まだ幼いアリスには理解しがたい状況だったのかもしれない。 相当のストレスだったに違いない。 「…ふむ。…妹か…」 俺は初めて出来た兄妹という存在を確かめるように彼女の顔を見つめ、起こさないように優しく抱き上げた。 人生初のお姫様抱っこだな。 改めてこの子が俺の妹なんだという実感が湧くと、不思議と彼女が愛しくてたまらなくなった。 俺は気付いたらアリスの頬にキスをしていた。 アリスはくすぐったかったのか、モゾモゾと抱っこされている腕の中で動くが、すぐに笑みを見せる。 「…妹、可愛いものだな…」 この時、俺の顔は今まで生きてきた中で最高に気持ち悪かったに違いない。 だが、胸の奥から沸き上がる不思議な温かさを秘めたモノを感じる。 「…悪くない気分だ…」 アリスをベッドまで運び布団を掛けてやり、離れようとすると、袖を引っ張られる感じがした。 「…………………」 アリスが俺を無意識にギュッと掴んでいたのだ。 本気で引き離そうとすれば簡単に振り解くことは出来た。 だが、必死に俺を放さないと言わんばかりに掴む健気な姿を見ているとそんな気も起きなくなってきてしまう。 「…やれやれ」 嫌々、言ってはいるがどこか満更でもないような表情で仕方なくアリスと一緒に昼寝をすることにしたのだった。 「…おやすみ…アリス」 それから三日間、俺とアリスだけの生活が続いた。    
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