プロローグ

4/5
448人が本棚に入れています
本棚に追加
/90ページ
     幼い私は、どうすれば父が褒めてくれるのか悩んでいました。  母に相談しようと思ったが、きっと…母にも分からないだろう。  何故なら、父と母は当時の幼かった私から見てもとてもじゃないが…仲良く会話するような間からではなかったからです。  外から見ても…夫婦と言うよりは、善く言えば仕事仲間…悪く言えば仕事だけの関係。  何より…二人からは愛情が全く感じられません。  当時を振り返ると、他人に接しているかのような雰囲気だったと思います。 「…きっと、お父様とお母様は…ケンカをなさっているだけなんだわ…」  そんな二人を見て、私はそう思うようにしていました。  そうです。  現実逃避です。  きっと、仲直りして普通の家族のように…私を間に笑いながら手を繋いで引いてくれる父と母の光景を思い描きながら…。  今思えば、当時の私はそう自分に言い聞かすながら心の均衡を保っていたんだと思います。  でも、ある日…突然 「…明日香、ごめんなさいね…」  物悲しげな表情で、私を見つめながら一度抱き締める母親。  母はそう言うと、それ以外は何も言わずに家を出て行ってしまいました。  私は、その後ろ姿を呆然と眺めているだけだったんですが。 「…明日香や」  そんな私を、お祖父様は優しく抱き締めながら“儂を許してくれ”と…ただ、そう何度も呟いています。 「…何で…っ」 「…明日香?」 「…何で…何で!? 何で皆私を見てくれないの…?」  お祖父様の腕の中で、溜まりに溜まった感情が溢れ出しました。 「…私は、ただ…褒めて欲しかっただけなのに…たったそれだけのことなのに…っ」  ただ、普通の家族のように…テストで良い点を取ったら頭を撫でてくれたり…抱き締めて欲しかっただけなんです。  どんなに辛いことがあっても、お父様とお母様と…。  そしてお祖父様と幸せに暮らせれば…それだけでよかったのに。  嗚咽を漏らしながら泣きじゃくるそんな私を、お祖父様はただ…じっと黙ったまま、抱き締めるだけでした。  それから暫くして、父と母が離婚した事を告げられたのです。  
/90ページ

最初のコメントを投稿しよう!