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そんなことを考えながらいつものように放課後、少しくたびれた屋上のベンチで愛読書の『子育てマニュアル本』を読んでいたのだが。
「……………」
何だか知らないが飛び降り防止の柵を越えようとしている如何にも、自殺志願者みたいな女生徒がいた訳なんだ。
妙な雰囲気を醸し出しているその女の表情は、今にも飛び降りてしまいそうなほど深刻な面をしていた。
「これは、まさか…アレか?」
瞬時に何かを悟った俺は、刺激しては危険と判断した。
「…アレを使う時だな」
かつて親の仕事を見学するために会得した“無音歩行術”を駆使し、恐る恐るその女生徒の背後へと近づく。
その場の重い空気で緊張して乾いた喉を潤す為に唾を飲み込み思わず喉を鳴らしてしまう。
此処が戦場なら小さな音一つで命取りになりかねないが…ここは平和大国日本。
二年連続で世界平和ランク三位の実績を持つ国だ。
背後からの足音一つで銃口を向けられることはない。
だが、俺は知っているのだ。
「完全な平和など存在しない」
故に俺には一切の油断も隙も存在はしない。
「…俺に抜かりはない」
一人ほくそ笑む俺…。
そんな姿が出口付近にある窓ガラスに映し出される。
「…フッ、不気味じゃないか」
相変わらず笑うのは得意じゃないらしい。
それは、置いといて…
俺は、半分の好奇心と残り半分の恐怖心からある言葉を柵越しに居る女生徒に向かって問いかけてしまった。
「もう、逝くのか?」
「――――ッ!?」
女生徒は俺の存在には気づいていなかったらしく体をビクッとさせ、足を踏み外してしまう。
その瞬間、妙に落ち着いていた俺は冷静にこの状況を分析し始めていた。
ここは、屋上…高さから言うとビルの四階に相当する。
落下すれば恐らく死は免れないだろう。
「確実に死んだな…」
その時の俺は他人事のように思って気楽に見物していたのだが。
だが、しかし…。
しかし、だ…。
誰もいない放課後の屋上に二人の生徒、一人は自殺をしようと屋上から飛び降りようとしている。
屋上の下には、部活動などを終えた帰宅途中である複数の生徒。
そして、今から自殺しようとしている女生徒の死体が加わる。
そう…。
俺が…。
「…俺が容疑者だ」
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