信長

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信長の足は自然と帰蝶の元へ向かった ─灯りが消えている もう寝たのか 当たり前か…ただでさえ熱を出しているというのにこのような夜更け…─ 信長は暫くその場に立ちすくむと意を決し木戸を開け暗闇の居間を抜け寝所の襖を開いた 枕元の燭台の灯りが穏やか様子で眠る帰蝶の顔を浮かび上がらせていた信長は帰蝶を見ながら静かに後ろ手で寝所の襖を閉めた その時帰蝶は瞼を開き驚いた様子で信長を見つめた 「…どうなされました?」 「寝顔を見にきた…」 「…お入りなされませ」 帰蝶は布団を捲ると信長を誘った 「……」 信長は帰蝶の横に躯を滑り込ませると帰蝶の顔を見つめた 「冷たい躯をされておいでですね…」 帰蝶はそう言うと信長の手を両手で握った 「熱いな…まだ熱は引かぬか?」 「…昼間よりは随分楽になりました」 帰蝶はそう言うと信長の頬に触れた 「お顔も冷たい」 「…暖めてくれるか?」 「私でよければ」 帰蝶はそう言うと信長の躯を抱き締めた 信長は帰蝶の胸に顔を埋め帰蝶の細い腰を抱いた 「殿…?」 帰蝶は小刻みに振るえる信長に眉を寄せた 「どうなされたのです?」 「…そなたを失うのが怖い…あの日より このままそなたが儚くなりそうで…」 「……」 帰蝶は信長の頬を両手で包むと軽く唇を触れさせて優しく笑った 「私は生きております この通り それに例え今 儚くなっても悔いなどございませぬ」 「…わしは悔いだらけじゃ」 帰蝶は胸元を開くと信長の手を小振りな胸元へ当てた 「帰蝶…止めよ そなたを抱くつもりで来たのではない」 「……」 帰蝶は信長を組み敷いた 「そなたさじの見立てを忘れたか?」 「…私に触れて…触れていただけぬ私などただの置物でございましょう」 「今はそなたを抱かぬ」 信長はそう言うと帰蝶の躯を抱き締めた
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