一章

8/31
前へ
/46ページ
次へ
 人を嫌うという行為が、そもそも苦手だ。どちらかというと、その先が怖い。  教室で、その手の話を聞くときいつも思うのは、その念の矛先が、自分に向いたときのことだった。  今現在いがみあっている生徒同士が、一ヶ月後には“親友”として、別の生徒の悪口を言っているなんてことは日常茶飯事で、時に雪はそんな級友たちに浅ましさすら感じることがある。  そんな反動もあるのかもしれない。雪は一度好意を抱いた対象には、どんな悪い面を見せられてもなかなか反感を抱けない。  だから、高杉のおかしな言動を目の当たりにしても、彼を決定的には嫌えない――。  「ちょっと、あれ!ほら――」  ざわり。騒がしい駅でも明白だった空気の変化に雪は無意識に顔をあげる。  ざわめきの理由はすぐに分かった。  「白銀学園…」  雪は一人ごちた。  真っ白なブレザーを着た集団。その制服を知らない高校生は、この国にはいない。  「白学も今日から修学旅行なんだ…」  「違うよ」  ぎょっとする。――隣に譲葉が居るのを忘れていた。  「違うの?」  「高等部二年の修学旅行はヴェネチア。あれは他の研修かな…――らしいよ」  後半、譲葉は急に言葉を濁した。  「なんでそんなこと知ってるの」  「らしいって話!知らないよ…!」  やけにむきになって否定する。雪が睨むと、そっぽを向いてしまった。  (もう……)  こうなった譲葉はもう、口を割らないことが分かっていた。雪は諦めて、視線を真っ白なブレザーの集団に戻す。  彼らは、恐ろしく目立った。そのブレザーのせいでもあるが、それ以上に彼ら自身の雰囲気のために。  私立白銀学園高等学校。付属の小、中学校も同様に、知らぬもののない名門・有名学校だ。  出る大会の首位を総なめにし、模試の上位者にもその名は連なる。卒業生には某大学の名誉教授だったり、プロのスポーツ選手だったり、ハリウッド女優だったり――。  誰もが一度は憧れるその学園。  そしてやはり、生徒の纏うオーラにも、圧倒されるものがある。  シワひとつない、ピシッと糊の効いた真白なブレザー、紺のプリーツスカート。モデルばりのスタイル、秀麗なその容姿。  誰もが声ひとつなく、その集団を見ていた。雪も例外ではない。  (これだけ注目されたら、嬉しいかな。……ウザイかな)  そんなことを思っていた時だった。  (え…――)  
/46ページ

最初のコメントを投稿しよう!

42人が本棚に入れています
本棚に追加