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その少女は白銀学園の制服に身を包み、同じ服を着た集団の中心にいた。
全ての音が何かに吸い込まれていくような感覚だった。全てが静まるのだ。振動さえ。
――自分と彼女を除いて。
動けない。
心臓の音だけだ。それだけが、自分の存在を確認させた。無の境地。
真っ直ぐに雪を射抜く、雷光のような眼差し。精神さえ痺れて、その瞳に抗えない。
黒い黒い御髪、真珠の肌。夢で見たあの少女と寸分たがわぬその姿。
その、黄金の眼差し。
数分、或いは数秒にも満たない時間だったのかもしれない。
人形のようなその面がふいに綻ぶ。花開くようにという、まさにそうとしか形容しようのない動作だ。
――少女は微笑んだ。
永遠にも思える瞬間だった。
「雪!」
譲葉が叫ぶのと同時に膝の力が抜けて、糸の切れた人形のようにかくんと膝が地についていた。
「どうしたの?!大丈夫?」
「あの子…」
――いない。
「え?」
「あの髪の長い…女の子」
金の目の、と言いかけて、何故かそう言うことが出来ない。
彼女が立っていたはずの場所。その周囲。いない。それどころか、あれほど存在感を放っていた真白のブレザーの姿を、一人も見つけられない。
――ぞっ、と鳥肌が立った。
「あの子だよ。…そっちじゃない、ゆず…ゆず――違うったら!」
全く検討違いの方向をキョロキョロする譲葉に、思わず大きな声をあげた。
譲葉が少し身構えたのが分かる。
「とりあえず立ちなよ」
「あの子…どこに…」
「雪、立って」
少し強めに言われて雪は立ち上がった。立ってからもう一度周囲を見渡して、溜め息をつく。
いない。
「どうしたの、ほんとに」
「夢で見た子と、すごく似てるひとがいたから…」
「…ふうん」
譲葉は一瞬、何かを考えるように黙り混む。
「―…じゃ、それも夢だったんじゃない?」
「はあ?!」
冗談じゃない、と否定しかけて、あながちそれができないので黙りこむしかない。
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