一章

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 目を覚ました雪は、細く、長くため息をついた。夢を見ているときの睡眠は浅いのだと言う。そのせいだろうか、若干の怠さが胃の下辺りに渦巻く。  「………」  ――また、金の目の少女の夢。  じつは、幼い頃から、何度となくみる夢である。  見たこともない少女が、まっしろな何も無い空間を、ただ自分の手を引いて歩いていく夢。いつからか、少女の艶やかな黒髪と、なんと言ってもあの、黄金の瞳が脳裏に焼き付いて、離れなくなった。  ――あの子は、だれ?  引っ越しを繰り返していた幼少期を思えば、小さな時に遊んだことがあるのかも知れない。  雪はもそもそと布団から起き出して、クローゼットに手をかけた。  「じゃあ、行ってきます」  「気を付けてね。やっぱりもう一枚着たほうがいいんじゃない?向こうは暖かいと思うけど、一応」  「大丈夫だって」  ブレザーの下にはカーディガンも着ている。東北で11月と言えば、雪もちらつく程の冷気だが、これから向かう京都は、まだずっと暖かいはずだ。  高校2年生の雪たちは、今日から三泊四日の修学旅行で、関西に向かう。  「一日目は京都かあ」  新幹線の座席でひとりごちると、隣の座席のクラスメートががばりと起き上がった。  「和菓子、楽しみだね?!」  「…単純」  「なんだとおっ?」  雪の隣に座っている少女の名は八敷譲葉という。  父親の仕事の関係で、幼い頃から転校を繰り返していた雪と、2年の4月からの転校生という珍しい存在の彼女は、異質なもの同士、意気投合して親友になった。  雪からみて譲葉は、良く言えば素直、悪く言えば些か短絡的な子であった。それは時にぎょっとするほどのもので、いつも雪はハラハラさせられる。  「文化を観賞しようって気は無いわけ?」  「仕方ないだろ~僕、もうお腹すいてんだよね」  「………」  がさごそとリュックを漁った彼女の手がつかみ出したものに雪は絶句する。  修学旅行のおやつに、スルメイカ持ってくるか、普通!!  「………ちょっと!」  「あ、え?…ああ、雪も食べる?」  「違う、馬鹿!」  ぱこんっ、と小気味良い音が鳴り響いた。  
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