一章

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 雪が彼を好きになるのに、そう時間はかからなかったのだ。  「榊原は自主研修、どこにいくの」  言って高杉は少し邪魔そうに髪を耳にかけた。中性的な顔立ち。つくづくきれいな顔だ。  「宇治上神社に行って、下鴨神社いって、あとは和菓子作り体験して…かな」  「宇治上神社って桐原水の神社だね。宇治名七水の」  雪は面食らって、目をしばたいた。その通りだ。  「すごい、高杉くん。詳しいの?」  「…行くんだ。僕もその神社」  やった!  食いつきたくなるけどグッとこらえた。境内で会える可能性が見えた。二人一緒に境内を歩く姿がちらっと頭をよぎる。いいじゃん、それ。  高杉はいつも通り静かに笑っている。  「榊原は神社とか好きなの?」  「好きって言うか…」  訊かれてちょっと迷う。  「うーん、そうなのかも。割りと嫌な感じはしないよ。落ち着くし、歴史とかも好きだから」  言ってから後悔がどっと押し寄せた。  神社好きの女子高生ってなによ。  絶対変に思われた!泣きそうになりながら彼の顔色を伺うと、えっ?彼は怪訝な顔どころか、輝かんばかりの笑顔で自分を見ているじゃないか!
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