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「だからオオクニヌシが側について離れないんだな」
――オオクニヌシ、て、なに。
脳内が疑問符だらけになったが、今はそれどころじゃなかった。
「手、痛いよ…!」
彼の爪が皮膚に食い込む。握り潰されるんじゃないかって勢いだ。たまったもんじゃない。
「離して…!」
高杉はなにも言わない。ただいつも通り笑っている。笑って雪を見ている。
――全身が粟立った。
「ごめん、そこまで」
――誰かの声に、こんなに安心したのは始めてだ。
雪の手首を掴んだ高杉の手に、やたら大きくて綺麗な手が伸びて、軽く甲に指先が触れる。
高杉は弾かれたように雪の手を投げ出した。
「雪、帰るよ」
――譲葉は少し強引とも取れる動作で雪を立ち上がらせると、そのままその手を引いて歩き出した。
「…………」
混乱する頭で、雪は高杉を振り返る。
「!」
こちらを見つめる彼と目があった。そこにいつもの笑みは無く、能面のように無表情。
とっさに目を反らす。
「もう大丈夫だから」
車両と車両の繋ぎ目まで来ると、今まで無言を貫いていた譲葉が立ち止まって振り返り言った。
なんと言ったらいいのか分からず立ち尽くしていると、ぽんと頭にやさしい感触がして、その温度に安心する。
その手は何度か毛の流れにそうように雪の頭を撫でた。
――…あ。
そこで雪は、自分が震える手で、必死に譲り葉の手を握り返していたことに気付いた。
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