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その一言で我に返る。
「……どうぞ」
言いながら僕は少し端にずれ、ベンチの空きを更に大きくする……凡そ二人分は空いたであろう。
「ありがとう」
彼女が腰を下ろす、態々僕の直ぐ隣に。
微かに吐息が聞こえた気がした。
ベンチの端で、断崖絶壁に追い込まれた気分を味わいながら、僕はまた子供達を眺める。
微風が木の葉を揺らす音と子供達のはしゃぐ声、微かに聞こえるせせらぎが僕を包む。
当たり前の日常に隠れたごく普通の時間だが、僕の好きな空間ができる優一の瞬間でもある。
「――いいですね」
隣の女性が言った。
好きな事に没頭している時に声をかけられれば、本来なら不愉快になる人が多いだろう。少なからず僕もそうだと思う。
でも彼女の声は、何故か心地好く聞こえて……不愉快に思うどころか、僕は耳を澄ませて彼女の次の一言に何故か期待してしまっていた。
「子供を見るの……好きなんですか?」
その言葉は僕に向けたものだった。
僕は真剣に悩んだ。
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