名前

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あれから4年。 山の中に小屋を建て、あの時の少女と暮らしている。 「カイ、そろそろ休みましょう。」 「うん。そうだね。」 いまは狩りや農業で自給自足をして生活している。 何かに頼ったりは基本的にしてない。 彼女は握り飯を渡してきた。 俺はそれを頬張ると家の中の剣を見た。 あの時の親方様の血は拭っていない。 あれが俺の戒めとなるのだから。 「ねぇ、カイ」 「ん?」 「あのね、私 貴方を好きになってよかったと思う?」 「急にどうした。」 握り飯を喰い終わり指を舐める。 「だって前より私幸せだもん。」 「俺もだ。」 二人同時に笑った。 「さぁ、仕事に戻るぞ」 「早く終われそう?」 「あぁ、飯の用意は早めに頼むよ。」 「任せて」 俺と彼女の腕と足にはすでに枷はなかった。 悪魔と呼ばれた俺と名を失った少女は、今は名前のある生活を送っている。 そして名前を読んでくれる、大切な人がいる生活を送っている。 あたり前になる前にこの幸せをかみしめたい。 ふと見上げるとそこには月が輝いていた。 だがその隣に小さい二つの星が輝いている。 名前もない二つの星。 俺にはそれが月よりも綺麗に見えた。 俺は小屋に戻ろうとする彼女を引きとめこう言った 「あの星に、名前を付けないか?」 これが6歳から悪魔と呼ばれてきた僕の物語だ
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