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*ー*ー*
証明も消された室内はすっかり暗くなった。
二階は仄暗い闇に包まれており、小さな天窓から漏れる僅かな月光だけが僕らを照らす。
暗闇の中、固く閉じた瞳をそろりと開けてみた。
ばちり、と。
八尋はずっと瞳を開けていたのか目を開けたのと同時に視線がかち合い、熱を感じた気がした。
「……ンふ、ぅぅ……」
響く水音と八尋の視線で更に羞恥心が増して、僕は思わず瞳を逸らそうとした。
でも、鋭い漆黒の瞳は僕の視線を捕らえて離さずそんな僕にチラリと視線をよこしたが、すぐに八尋は背を向け階段を下りようとした。
「ま…待っ…どこ、行くんだよ…」
「あ?どこって、外に決まってるだろ」
「だって、ドア!」
鍵がかかってて出られないんじゃないの?そう言おうとした。
八尋は僕が言い切る前に飄々と「鍵なんか内側から開けられだろ」と言い放った。
(…ソウデスネ。)
なんだか八尋に、そんな単純なことも分からないのか、とバカにされたようで、うちのめされた僕はふらふらと立ち上がった。
階段を一段降りたところで八尋は僕の方に何かを投げてきた。
チャリンと金属が落ちた音の先を見ると、鍵が落ちていた。
「出るとき、鍵閉めていけよ」
そういうと八尋は階段を下りていった。
(あいつ…鍵持ってたからあんなに余裕だったのか!)
僕だけが振り回されていたのだと思うとふつふつと怒りが込み上げてきた。
すぐさま階下を見下ろせるバルコニーまで駆け寄った。
そして、暗闇の中を移動する影に向かって
「八尋!ふざけんなバカー!!」
心のままに怒鳴ってやった。
鍵があるならさっさと出せ!やら、今のは何なんだバカー!やら色々と叫び続ければ八尋は少し立ち止まってこちらを見たようだった。
…が、如何せん室内は真っ暗で、彼の表情など全く見えない。
だけど、何故か、八尋の目と静かに見つめられた気がする。
言いたいことはまだまだ沢山あるのに、何も言えなくなった。
しばらく時間が過ぎた後、八尋はゆったりドアへと向かって歩いていった。
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