転校します!

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  もう物凄く頭にきて、八尋の両肩を突き飛ばした。 「まだ何かある?!別に無いっていうのなら腕離して。第一、八尋が引き止めなかったら外に出られたのに!寮に門限前に帰れなくて仁先輩に怒られたら八尋のせいだから!もう全責任だから!!」 頭に浮かぶ言葉のまま八尋にぶつける。 仁先輩に怒られるであろう恐怖心と、何も言おうとせずただ呼び出して突然変になったと思ったら平然としている八尋への怒りを爆発させた僕は、無意識に『龍ノ宮』では無く『八尋』と呼んでしまったことに気付かなかった。 僕が呼吸を整えながらしかし睨んでいるのに、八尋は満足そうに、少し、笑った。 それを見て、思わず怒りも吹っ飛んで目をむいた。 (笑った…。八尋が?) 初対面から無愛想な、無言で会話をするような、あの八尋が…僅かな口角の変化とはいえ笑みを浮かべたことに僕は言いようの無い衝撃を受け、その場に縫い付けられて立ちすくんでしまった。 「……やっぱりお前はバカだな」 仄かな笑みを口元に湛えた八尋が手を伸ばして僕の腰に手を回した。 ゆっくり近付いてくる顔。 東雲会長が巫山戯て顔を近付いて来た時とは何かが違うと、頭の何処かで感じた。スローモーションのような体感時間。顔を退けようとすれば出来る筈なのに”動けない”。 次の瞬間には八尋の唇が僕のと重なり合っていた。 柔らかい感触がキスされていると脳に伝達した、その時になってようやく僕は必死になって八尋から離れようとしたが、力強く八尋の腕に腰を抱き寄せられて逃げることが出来なかった。目をぎゅっと瞑り、それでも八尋の肩を押し返す。 「んー!んんー!!」 当たり前だが口を塞がれていて言葉を紡ぐこともできない。 「んむっ、ふぁっぁ……」 呼吸の為に開けた唇の隙間に温かい舌が滑り込んできて僕の舌に絡み合う。上顎を時折掠められるのがくすぐったく、ぬるりとした初めての感覚に段々と脚に力が入らなくなって、僕は無意識のうちに八尋に抱きついていた。 そこで僕は、不覚にも、本当に不覚にも、八尋の腕の中にいることに心地よさを感じてしまったのだ。  
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