転校します！

　＊ー＊ー＊

ぼすんっと荷物を落とし、郁は行く手を阻む門を見上げた。
驚きのあまり開けた口が塞がらない。

「―――…高っ！！」

校門といえば高さ１ｍぐらいが相場だが、目の前にダダン！とあるのは高さ３ｍはあるだろう「城門」であった。装飾もゴシック調で荘厳だ。
只の門なのに。
テレビでしか見たこと無いレベルで高価そうなことが一目でわかる。

これからの生活に一抹の不安を覚え、郁はその原因である母を軽く恨んだ。

寮があれば何処でもいいじゃないか。
今更そんなことを思っても仕方ないのだけど。

　＊ー＊ー＊

高校を突然辞めさせるという暴挙に出た母へ理由を問い詰めたところ、なんでもとある大企業の社長と再婚した。

………らしい。
(全然知らされてなかった)

そこで新婚生活のために海外移住を決めた母は、日本に残る郁が心配で寮のある学校を選んだのだ。

だったら一緒に連れて行けとも思うが、これまでに新婚生活らしい新婚生活を営んでこなかった母は、『心機一転☆らぶ×２新婚生活』を新しい父とするために、子供を日本に置いていくという。

全く。なんとも酷い話だ。
心配なら置いていくな、だ。

母の主張も分からなくもないが、折角！ようやく！合格通知を貰った高校（20回は数字があるかを確認した）を諦められず、郁は負けじと食い下がる。

『学校に通うなら、武にぃの家に住めばいいじゃん！寮に入る必要なくない？！』

『だぁーめっ！武には忍ちゃんがいるんだから。おじゃましちゃ、めっ！』

武にぃ、もとい神原 武斗は僕の４つ上の兄で、大学に通う傍らIT関連の会社を運営している。

………らしい。
（教えてくれない為よく分かってない）

忍は武斗の恋人で、高校生の頃から付き合っている。
武斗が大学入学して家を出たのと同時に２人は同棲し始めた。

ちなみに忍とまだ一度も顔を合わせたことはない。
何度『忍さんに会わせて』と郁がせがんでも、武斗は含みのある笑いを浮かべて『お前がもうちょっと大人になったらなー』と躱してしまうからだ。

しかし美柚は忍と仲が良く、時折(嫁と姑？)２人だけで買い物へ行っている。

そんな母を少し羨ましいと思い、忍が見れるのでは？と期待を込めての代替案だったが、却下されてしまった。