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『――分かった。寮には入るよ。でも、寮がある高校なら何処でもいいじゃないか!』
郁は持っていた冊子をテーブルに投げた。
その表紙には[来栖学園]と金字で記されていた。
私立 来栖学園。
次世代を担う紳士淑女を育成するため、世間と切り離された空間にて生徒の教養を磨いてく方針の学校である。
ぶっちゃけてしまえば、富裕層のお子様を世間一般から分離している学校だ。
『うちって中産階級くらいだと思うんだけど?』
『うん☆』
『じゃあっ!』
『でもね!貴紀さんのおかげで通えるのーっ』
おててのしわとしわを合わせて幸せー☆な母。
新しい父は貴紀(たかのり)さんという名前らしい。
郁の頭に図式が成立する。
新しい父(貴紀さん)
=大企業の社長
=しかもかなり大きい会社らしい
=個人資産額……
=学費、余裕で払える
徐々に反論できなくなり、言葉に詰まる。
『編入試験、みたいなのあるんじゃないの?それにこの学校にする理由、まだ聞いてない!』
まだ負けじと反撃する郁。
だが、経験から白旗を揚げるのが近いと悟る。
その最後の一打として、母は笑顔でこう言った。
『編入試験は平気!免除してくれるって。
この学校、なんだか面白そうでしょっ☆』
にこやかに告げられる言葉。
それに脱力していまい、どこからか聞こえてくる試合終了のゴングと共に郁の抵抗は終わった。
―――こうして、母の「なんだか面白そう」という一声で郁の高校生活は決められたのだ。
******
それからは目まぐるしく事は進み、編入日となった。
少し気になるのは母が海外へ出国する際に残した『彼氏ができたら教えてね☆』という言葉だった。
言い間違えたのだろうか。
あの母ならそうかもしれない。
「彼氏じゃなくて彼女だってば」
はぁ、と一つ大きく溜息を吐き、重い足取りで学園内へと進んだ。
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