序 章:混沌の大嵐

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 天地創造、大海簫、大寒波。 さして面白くもない神話を一撫で。 何処ぞの誰が造ったかも知れぬ聖典なぞ、大して大事な物でも無かろう。 そもそも天地を創造したのを誰が見た、問い掛けは返らぬと知りながら、“聖職者”は煙草を燻らせる。  清浄の法衣、掲げる十字架、何とも無感動に慈悲深い笑みを模り、やれ礼拝だ何だとそぞろに裾を引いて歩く様。 詰まらん、下らん、気に喰わぬ。 ほら袖の下を見るがいい、金銀宝石、汚濁に塗れた聖職者共が居る。 あの仮面の下を覗いてみよ、とても“清廉”とは言えぬだろう。 「(後方でぬくぬくと肥えやがって。豚どもが)」  ああそうだ、聖職者は清廉潔白で在らねばならぬ。 ならば己も聖職者ではない。 妻を娶らぬ、そういった行為も赦されぬ、酒も賭博も一切禁忌―――やれ今日も煙草が美味い。  女を抱けぬなら男を抱く、まあ大半がそういった連中だ。 それも吐き気が走る、だからと言わんばかりに自分は酒・賭博・煙草等は嗜んでいる。 女も男も抱く気にならぬ、男として哀しいと言われても、その気が無いから仕方ない。 柱の陰から少年がこちらを見ていても、色目を使われても、虫酸が走るがその気にはならない。  ああ、何だか寒気がした。 「ルドルフ様」 「…オスカーか。頼む、あそこの餓鬼をどっかに行かせろ。気色悪い」 「……司教様のお付き故、私に言われてもどうにも」 「司教と俺、どっちが大事だ」  溜め息一つ返される。 我が儘か、これは。 オスカーが踵を返し、柱の陰へと歩み寄る。 何だかんだと世話を焼く上、自分の頼みには答えるのだ。 因果だな、どちらが年上か分からない。 「下がらせました。さ、礼拝に集中を」 「―――聖書持ってきてねぇ」 「…やれやれ。苦痛なのは理解しますが、少しは堪えて頂けませんか?」 「はん、聖職者ってもな、俺みてぇな生粋の“僧兵”はこんなもん関係ないのさ」 .
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