2.Flower except mine is red.

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 イズナとアンが出会ってから、一緒に過ごす7回目の冬。アンはすっかり住み慣れた家へ、香ばしく焼けたバケットを詰め込んだ紙袋を手に帰っていく。  まだ日は高く、しかし空気はひんやりと冷たい。頬を撫でる風が昔のことを思い出させて、アンの顔は自然と綻んだ。診療所の裏口から家へ入ると、2階へと上がった。 「ただいま、イズナ!パン買ってきたよ」  勢い良くリビングの扉を開くと、テーブルの椅子に座るイズナともう1人、見知らぬ女性が優雅に紅茶を飲んでいた。アンの手から紙袋が滑り落ちる。 「なっ……ななっ……!?」 「まっ!待てアン、誤解だ!」 「何が誤解よ!何がいけなかったの!?そう……胸ね!胸なのね!私の胸が小さいから……!」 「違う!私は胸が小さい方が好みだ!」 「きゃー!昔『子供には興味はない』って言っておきながら、私の身体が目当てだったのね!それで私が大きくなったから捨てるのね!そうなのね!」 「論理がめちゃくちゃだ!あーもう!アリス、お前の口からも何か言ってやってくれ!」  アリスと呼ばれた女性が、静かに紅茶のカップを置いた。見れば確かに胸は大きく、大きく胸元が開けた過激なローブを着ている。後ろで2つに纏めたブロンドの髪に青い瞳で、見た目は20歳前後くらいに見えるだろうか。そしてぽつりと、一言。 「……激しかったわあ」 「ちょっと!イズナ!何が激しかったのよ!説明しなさい!」 「ちょ……ちょっ!アリス!お・ま・え・はぁあああっ!」 「人のせいにしない!正座!」 「はいぃぃいいっ!」  その様子を見ていたアリスが、くっくっと笑い始めた。正座で冷や汗をかくイズナが、呆れたようにため息をついた。 「……いい加減にしてくれ」 「ゴメンゴメン、あのイズナがこんなに可愛いお嫁さんを貰ったとは思わなくって、つい」 「つい、じゃない。いいから説明してやってくれ」 「……?」  首を傾げるアンに、アリスが話し始める。
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