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「……でも、ここから逃げる気はなさそうね」
「ああ、私は医者だからな」
イズナがそう言うと、紅茶を一口うまそうに飲んだ。アンが慌てたようにイズナの肩を掴む。
「ねえ、ちょっと待ってよ!じゃあイズナは魔法なんてファンタジーなこと、信じるの!?」
「それは信じてはいない」
「じゃあ、どうして!」
「アリスを、信じてるからだ」
「……!」
アンが、アリスの方をはっと見る。
「……名付け親には、とても見えないけど」
「56歳よ。なんならあたしの生まれた時のカルテ、見てみる?教会に保存してあるわ」
「ごっ……」
「うん?まだ60過ぎてなかったのか。若作りも大変だな」
「失礼ね、これでも薄化粧で済んでいるのよ?まだまだ20代で通せる自信があるわ」
「30が限界だな、昔より老けた」
「なんでそんな落ち着いていられるのよっ!」
アンが叫ぶ。イズナとアリスが同時にアンの方を見て、次にお互いに顔を見合わせた。
「……なんでそんなに取り乱してるんだ?」
「だって……イズナだって凄い召喚士なのに!」
「私自身はそうは思わないし、たとえばどんなに凄い召喚士でも、重病の患者を治せる訳じゃない。今のアリスの話で重要な点は3つだ」
「3つ……?」
「まず1つ、魔力とやらを有している者がここアーレイカムに現れた。2つ目、十字騎士団――通称、ルミナスクロスがここアーレイカムに少なくとも3日前には居た。3つ目、ヒストリア教会が動いている」
「十字騎士団なら、まだ滞在してる筈よ。少なくともレフトウィング隊はね」
「レフトウィングと言えば、革新派の連中だ。なぜ奴らがここに居る?ヒストリア教会がまず一番先に疑ってるのはここだろう」
言葉が途切れて、リビングに沈黙が訪れる。
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