1.Pity is akin to love.

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 冷たさを感じる鈍色の空。小高い丘は岩がむき出しになり、ところどころに深く掘られた溝からは黒い煙がもうもうと上がり、その空間を満たしている。遠くは見渡す限り白と黒の山々が連なり、丘を見下ろしている。  深く掘られた溝をよく見ると人間の死体が倒れていて、まるで掘り起こされた共同墓地のようにも見えた。  その丘の上から少し離れた低い場所に、木と石で組まれた小屋が立っている。木の板が取り付けられた窓からは光が漏れている。 「――先生、怪我人も無事に本隊に合流したようですよ」  暖かく頑丈そうな軍服を着た小柄な兵士が、ベッドの上の患者を治療する医者に向かってそう告げた。兵士の背中には大部分が木で作られている銃が背負われている。医者は兵士を一瞥すると、慣れた手つきで患者の腹を縫っていく。 「今頃本隊の奴らは臭い酒で祝杯を上げている所だろうさ。ああ畜生、羨ましいぜ」 「なぁに問題無いさ、どうせあと3日くらいは宴会続きだろう」  ランプで照らされている小屋の中には話している兵士2人と、質素なベッド5つのうち2つの上に寝ている患者たちと、その1つのベッドの上に寝ている患者の治療にあたっている医者が居た。医者はマスクと白衣を着込み、金色をした目の辺り以外は見えない。 「すまなかったな、付き合わせてしまって」  手術をしながら、医者が言った。慌てて兵士たちが首を横に振る。 「とんでもない!先生には助かってますよ。動かせない怪我人の治療までしてもらって」 「いいや、これは単なるエゴさ。礼を言うのは私の方だ。仲間達は宴会で騒いでる頃だろうに、すまないな」 「ははっ、先生。酒は生きてれば飲めますよ。ありがとうございま――」  兵士が医者に向かって礼を言おうとした刹那、小屋の扉が勢いよく開き、兵士の背中を打った。と、兵士が倒れる寸前に激しい銃声が轟く。よろける兵士に当たって、鮮血が舞った。 「この野郎――!」
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