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――ガァ、ガァというカラスの鳴く声に起こされた。目をこすり開けると、夕日が壁を照らしていた。子供たちの遊ぶ声が近づいて、遠ざかっていく。
ベッドの上のイズナは、脇の下でアンが丸まってすやすやと寝息を立てていることに気付き、自然と微笑んだ。アンを起こさないようにゆっくり起き上がり、脱ぎ捨てていた服を拾い上げる。
(――そう、魔法や魔力なんてものは信じてはいない。だが……)
パンツを履き、その上から暗い色のジーンズを履く。シャツを着ると、医者らしからぬ筋肉がかえって目立った。
(事実としてルミナスクロスとヒストリア教会、このふたつが動いている。……アーレイカムも、安全じゃないかもしれない)
シャツの上から、フードとファーのついた白のコートを着る。診療所を持つ医者だからといって、どこで患者と出会うかはわからない。常に清潔を保つためには、汚れがつけばすぐに目立つ白いコートの方が好都合だ。
懐中時計を手に取り懐に入れると、ベッドの上でがさごそと動く音が聞こえた。
「んー……イズナぁ……?」
「起こしてしまったか、悪いな」
「大丈夫……どこに行くの?」
「酒場に行こうと思っている。他所からの人間が一番多いのはそこだ」
「……。……戦争が、起きるの?」
イズナは確かに優れた軍医だった。いつも戦争が始まる時には既に準備しているし、自身も召喚士として徴兵された経験があるから、戦と病気に対しての感覚は鋭い自負はあった。
「……いや、まだわからないな」
謙遜やはぐらかした訳ではなく、本音だった。正直に言えば、何が起きているのかわからない。だからといって、思考を停止させるわけにもいかない。本当に危険ならばアンを連れてアーレイカムを離れる必要があるだろう。
「だから、情報を集めに行くのさ」
そう付け足した。アンは起きると、イズナが外に行く時は普段から携帯しているバッグを手に取って、イズナに手渡した。
「ありがとう。遅くならないように帰ってくる。夕飯はいらない」
「わかった。いってらっしゃい」
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