2.Flower except mine is red.

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 アーレイカムという土地は、かつては重要な交易の拠点だったらしい。港町と巨大山脈とのちょうど中間に位置していたためだろう。馬車が何台も行き交う町の道幅は広く作られ、赤いレンガで作られた建造物は昔のものと思えないほど頑丈で、しっかりと作られている。  美術館が多いのも特徴で、かつて交易で四方から得た芸術品たちが飾られている。その美術品たちや他者を受け入れる独特な風潮、文化を守るために国際的に保護区として認められている。安全な地を求めての移住も多く、治安はかなり良く保たれている。 (だからといって、頭ごなしに『安全だ』と思い込むのは危険だな)  日はすっかり落ちて、イズナは滅多に訪れない酒場の扉を開いた。開いた瞬間、酒のにおいと騒がしい声がする。カウンターに座ろうとして、大きな体躯の男が座っていることに気が付いた。灰色したもじゃもじゃの髪に、目の色は蒼い。イズナには見覚えがあった。 「破壊屋、破壊屋じゃないか。一体こんな所で何をやっているんだ?」 「おォ?……ああ、先生じゃねぇか!先生こそ一体こんなトコで何やってんだい!おいマスター!この先生にいい酒をやってくれ!」 「何って、医者やってるのさ」 「そりゃあそうだろうさ!先生の腕は一級品だからな!今頃セントリック辺りで軍医やってるのかと思ったが」 「あんな辺境で?冗談はよしてくれよ。破壊屋こそ何でここに?」  男の名前は、ザック・“破壊屋(ブレイカー)”・スミス。アンと同じくセルリア出身で、7年前のレクシアとの戦争で身体に6発もの銃弾を撃ち込まれたザックは、イズナの手で助けられた1人だった。“破壊屋”のあだ名がつく程有名な傭兵であり、事実さまざまな国、団体で雇われ、英雄と呼ぶに相応しい程の功績をあげていた。  ザックの傍らには布でくるまれた何らかの武器が、無造作に立てかけられていた。 「俺ァ、いつもの通りさ、先生。戦の臭いを嗅ぎつけて来たんだよ」 「……戦、か。大きいのか?」 「さぁな、詳しくは知らねェ」 「詳しくは知らない?どういうことだ?」 「その文字通りさ。ルミナスクロスの奴ら、センターヘッドとレフトウィングがここアーレイカムに来てやがんだ」 「……ヒストリアの教会が嗅ぎ付けて、おそらく監視をつけている」 「間違いねェな。理由は何でか知らねェけどよ。さぁさ先生!ここん酒はとびっきり美味いぜ!飲みなさんな!」
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