1.Pity is akin to love.

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「……もう、歩けないの……?」  アンの言葉に、イズナが俯く。その暗い表情を見て、アンはもう二度と歩けないのだと悟る。 「……そっかぁ、あし、無くなっちゃったんだね……」  途中で切断されて布で包まれた脚を見て、何故だか不思議と特別な感情は湧いてこなかった。  ……いや、実感が湧かなかったと言う方が正しい。本来あるはずのものが、なくなる実感が湧かなかった。落ち着いてみれば、アンにとってはそれが普通だった。それよりも自分を助け、我が身のことのように悲しみの表情を露わにする医者に、胸の奥がずきっと痛んだ。両手を思いっきり伸ばして、イズナに抱き着いた。 「……先生、ありがとう」 「……礼に思うくらいなら、ベッドの上で横になっていろ。私は飲み物を作る」  イズナはそのままアンを抱きかかえ、ベッドの上に寝かせた。そっとかけ布団をかけると、ガラスのビンに入った水を火にかける。  こぽこぽと水が煮立つ音を聞いているうちに、アンの意識は途切れた。  その次の日、レクシアの兵士さんたちが小屋にやってきて、イズナと何か話していた。その内容まではわからないけれど、わたしが外に出る時に目をつむっていろ、って言われたから、たぶん……イズナが殺した人達の死体が外にあったんだと思う。その話なのかな。  それから馬車でしばらく揺られて、わたしはイズナの祖国――レクシアの大病院に入院させられた。それから3ヶ月くらいして、私の国、セルリアはレクシアと『合併』することになった。……大うそ。セルリアは負けて、レクシアに吸収されたんだ。  そのこと自体は、どうでもよかった。あ、それと、同じ孤児院の子たちはみんな無事だったみたい。何人かはわたしのお見舞いに来てくれた。  イズナは、戦争の間はずっと軍医として働いていたみたい。戦争が終わってから私のお見舞いに来てくれた。お見舞いっていうよりも、手術後の状態を確認した感じだったけれど。まったくもう、仕事熱心なんだから。  その時私は初めての出血で大パニックで、そのことを話したらイズナに笑われちゃった。むっとしたけれど、イズナの笑った顔を見れたのはうれしかった。でもイズナを笑わせようと「ほら見て!イシツブテー!」ってやったら怒られたっけ。  ひとりで車いすで動けるようになってから、わたしの退院が決まった。
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