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それはただ単に幼い頃の記憶が曖昧だから覚えていないとかそういう類いのものではなく、私の頭の中から10歳までの記憶が消滅してしまったからだ。
私は10歳の頃、記憶を失った。
所謂、記憶喪失というやつだ。
私の中の一番古い記憶は病院の白い天井にぽつりと残る染みの跡。
10歳の私は、その黄ばんだ染みを見ながらここは何処だろうとぼんやりとした頭の中で考えた。
――いや、そもそも私って誰?
頭の中には何も浮かばない。
考えれば考えるほど頭が痛くて、幼い私は考えるという行為を放棄して、ただ天井の染みをひたすら見つめた。
うすぼやけた視界を覆うように、私の顔を初めに覗きこんだ人は、白髪の混じった初老の女だった。
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