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筆で絵の具をのばすかのように、両翼の先端が白い水蒸気の尾を引く。
気密性の低い機体からわずかに漏れた空気が一気に冷やされ、極小の水滴になっているのだ。
眼下には大きくひび割れた赤土のような地形が広がっており、樹木などは一切見当たらない。
砂漠の真ん中に突如現れる、ヒグラード峡谷である。
「死の谷か……」
ロアがどこまでも続く赤い大地を見て呟き、ふんと鼻を鳴らした。
ヒグラード峡谷は別名『死の谷』とも呼ばれ、樹木どころかサボテンすら生えておらず、もちろん生物も生息していない。
ある物といえば、この地で撃墜された機の残骸ぐらいのものであり、正に死の谷と呼ぶに相応しいと言えた。
ユーフーのコックピット内にざらついた音がスタッカートのように二度響き、続いてそれに混じって粗いアサドの声が聞こえてくる。
「……ジ…これより我が隊…は索敵及び迎撃に向かう……陣形を崩…な……」
無線連絡機のスピーカーはそれだけ告げるとブツリと切れた。
「おいおい、絶好調に音声わりぃな」
ロアはそう言って笑うと、通話ボタンを押して了解の意を告げた。
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