341人が本棚に入れています
本棚に追加
/227ページ
既に五本ばかりの煙草が灰皿に乗っている。
「煙草吸わない僕が持ってるワケないじゃないですか。それに、もうそろそろ時間ですよ?」
ロアが舌打ちすると、割れたスピーカーから耳障りな艦内放送が流れた。
「間もなく本艦はヒグラード峡谷上空に到達する。各戦闘員は戦闘配置につけ」
窓の外を見ると、いつの間にか雲は切れて肌色の砂丘が連なっている。
「しゃーねぇ。行くか……」
ロアは名残惜しそうに灰皿を一瞥して頭をかいた。
「この戦いで死んじまったら、次は死ぬほど煙草が吸える時代に生まれよう」
「何言ってんですか……今でも死ぬほど吸ってますよ」
ラウの言葉にロアは「ちげぇねぇ」と笑って返し、迎撃機発着庫へと向かった。
戦闘を前に忙しく動きまわり、否が応にも皆の緊張が高まる。
ラウの表情にも緊張が見てとれた。
「あんまり気張るな。死んじまったら出世もクソもねぇんだからよ」
ロアはそう言い、無精髭をじょりじょりと弄っていた手をラウの肩に置いた。
「わかってます」
「まぁ、帰って来たら一杯ぐらいおごってくれ」
「先輩がおごってくださいよ」
ラウは振り返って笑った。
最初のコメントを投稿しよう!