はじまりのゆめ

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3年前、ある日の夢の中。 白い鳩になって、いつものお気に入り空間を楽しんでいた私は、初恋の彼を想いながらフラフラと飛んでいた。 口からは無意識に想いが溢れる。 「ああ、会いたいな…」 そんな風に何気なく呟いた途端、私が作り上げた空間が何もかも無くなっていた。 その代わりに私が見たものは、 地平線の彼方まで伸びる線路と 猛スピードで走る新幹線 そして 生身で新幹線と並走する初恋の彼だった。 「…は?」 嘴から無意識に声がもれた。 驚きに驚きが塗り重ねられ、思考が停止する。 動揺しながら、もう一度眼下にあるものを確認。 線路。 新幹線。 初恋の彼 …が高笑いしながら駆けていく姿。 ………。 いやいや、ないない。 そんなはずは無い。 私はこんなのが見たいわけじゃない。 初恋の彼を思い浮かべただけなのに、なんで新幹線? 落ち着け私。 目をつむって深呼吸。 それから、彼と線路と新幹線が消えているイメージを念入りにして、金平糖が浮かんだ宇宙を脳内に想像した。 (よし、これで美味しそうな宇宙が目の前に…!) そう確信した私は『カッ』と擬音が付きそうなほど勢い良く両目を見開いた。 私の瞳に映ったのは… 全力疾走しながら新幹線に向けて満面の笑みで愛を語る彼の姿でした。 (………………うん! これ、私のせいじゃない!) 私の望まない成分100%の光景に、ここは自分の夢じゃないんだ、と悟らざるを得なかった。 つまり、ここは、初恋の彼の、夢の中である。 そう結論付けて、 キラキラと輝く彼の笑顔を見ながら、私は (百年の恋も冷めるって、こういうのを言うんだね) 生ぬるい微笑みをたたえて冷静に現実逃避していた。
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