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その耳元で聞こえた声は明らかに男のものだった。
今この場にいるのは俺とこの女だけ。他に人がいるわけがない。慌てて声の聞こえた方向を振り向く。しかし、その方向には誰もいない。
「あら、出てきちゃったのね」
『あいつ、俺のこと忘れちゃっているんだけど』
今度は女の横から声が聞こえる。女は明らかに何かと会話をしている。その姿は見えない。でも、その声の主が何なのかがわかった。その男らしくないしゃべり方が嫌でいじめていた。一年前、この屋上から落ちて死んだ望月涼のものだった。
「大丈夫よ。今度はあなたを見捨てるようなことはしないわ。ちゃんとあなたの望み通り、この男を殺してあげるわ」
この女、本当に俺を殺す気だ。
少しずつ女が近づいてくる。
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