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大友亮介は学校の屋上にいた。たった一人で。夕日は沈み始め、辺りは薄暗くなってきている。俺は、安全のために鉄の柵を背にして両手でしっかりと掴み、下を見下ろしている。
「ここから飛び降りれば、俺の悪夢は無くなるのか?」
俺は何かに怯えていた。その何かは俺にも分からない。だが、確実に何かが俺の命を狙っている。誰にも相談ができなかった。なぜなら、
『ここから飛び降りて、地面に衝突するまでの間にお前のやったことがどういうことかが分かるはずだ』
その俺の命を狙っている者は明らかに俺の声をしているからだ。
もう一人の俺が俺に語りかけてくる。そのもう一人の俺は柵の向こう側で今にも飛び降りようとしている俺を見ている。
「ひとつ教えてくれ。なんで俺はあの時の夢を見るようになったんだ? 俺だけが悪かったわけではないはずだ」
必死で後ろを振り返る。柵の向こう側には何もいない。声は聞こえるが、見えない。
『それは、お前があの時のことを忘れようとしているからだ。お前がその時のことを忘れないようにするために俺はお前に夢として見せているのだ。そして、お前は自分の意思でそこに立っている。罪を償うために、悪夢から逃れるために』
そうだ、俺はあの時のことを忘れようとしている。あの時のあいつもこういう風に見えていたのだろうか。その時、俺はこの柵の向こう側でただ見ていた。そう、何もせず。
「ごめんよ。あのとき、何もすることができなくて。今、俺もそっちに行くよ」
そう言い残し、大友亮介は屋上から身を投げた。
これが、大きな悪夢の始まりだった。この小さな悪夢が大きな悪夢へと増幅していく。
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