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オープニング
彼女にとって最初の理解者は彼だった……。
雨足が強くなり、駅前の広場は足早に過ぎていく人ばかりとなった。
誰一人として彼女の歌を聞いて足を止める気配はない。
まあ、いつも聞いてもらえないんですけどね……。
我ながら落ち込むことを思いながら彼女は自作の歌を精一杯歌い上げていた。
ここで歌い始めてはや一年、勇気を出して週に一度はこの駅の広場で歌い続けていた。
時刻は八時から九時の間で、その時間がもっとも利用者が多いのであえてそこを選んで彼女はギターをかきならして叫んでいるのだが……足を止めて彼女の歌を聞いてくれる人はいない。
それでも歌い続けないと……自分で決めたことだし……。
彼女はこの路上ライブを続ける際に一つだけ自分に約束をした。
『たとえどんなことがあってもこの一時間は歌を歌い続ける』
正直に言えばこの一年、何度も挫折しかけた。
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