孤高

1/1
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ

孤高

彼は孤独だった。 だが、彼はその事をなんとも思ってはいなかった。 彼は最初から孤独だったから。 孤独こそが己の居場所であり、心の安らぐ場所であると思っていたから。 故に彼は気高く、美しく、そして強かった。 ある日、彼に仲間ができた。 それは彼が望んだのではなく、彼に憧れてついてきただけの、彼にとってはただの厄介者でしかなかった。 静かだった彼の日々に、彼以外の音が紛れ込むようになった。 彼はその音を初めは疎んでいたが、次第に慣れていった。 ある日、仲間が動かなくなった。 暖かかった体がだんだん冷たくなっていくのを感じて、彼は仲間が死んだのだと理解した。 それからだ。 彼が弱くなってしまったのは。 彼は毎日新たな音を探して、いろんな所を巡り巡った。 静かすぎる日々。 もう音を聞く事ができない日々に、彼は次第に覇気を失っていった。 そしてとうとう、彼は死んでしまった。 原因は単純なもので、寂しさからくるストレスに体が耐えきれなかったからだった。 彼は温もりを知ってしまった。 彼は音を知ってしまった。 故に彼は、冷たくなった。 寂しさを知ってしまった兎が生きていくには、この世界は厳しすぎた。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!