~闇に沈む~

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       † 空が茜に変わる夕刻が訪れる。 のっそりと沈む 赤く大きな陽と、 薄い輪郭を空に浮かべる月。 樹海は早くも夜刻を 刻もうとしていた。 「…リスフェル、だいじょうぶ?」 「…カリス、ありがとう。私が…みんなが支えてあげるの…。」 まじないようにリスフェルは、 何度も同じ言葉を 繰り返し自分に 言い聞かせている。 「だいじょうぶ、ベルハウト、なる、よ。」 「…カリス、本当にありがとう…。私の事も支えてくれてるのね。」 「うん、カリス、ベルハウト、も、リスフェル、だいじょうぶ、なる、ほしい。」 一人気力を奮い立てる リスフェルに優しく カリスが言葉をかけた。 「カリス、リスフェルと居ましたか。」 「あ、ウルク。」 「…まだ目を覚ましませんか、彼…。」 悲しい目でウルクが 横たわるベルハウトの 様子をうかがった。 「…起きる様子はまだないの…。」 「…そうですか、今晩はここで過ごす事になりそうですね…。」 顔を背けてウルクは 小さく呟いた。 しかし、すぐに冷静な 表情に戻る。 「セルティマと僕、エリオットで夕食と朝食分を集めてきます。待っていてください。」 「…分かりました。どうかお気をつけて…。」 離れてゆくウルクを見送り、 ベルハウトを看病する 二人が残る。 静寂に包まれる樹海に ベルハウトの 消えかかる生命の灯火を 吹き消されそうで リスフェルは怯えた。 「…怖い…、カリス…私…私っ…怖いよ…!」 「…リスフェル、カリスが…ささえる。だから…だいじょうぶ。」 拙いカリスの言葉が どれだけ不安だった リスフェルに 安らぎを与えたのだろう。 彼女は震える体を カリスに寄り添わせ、 静かに涙を流した。
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