~闇に沈む~

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ベルハウトの小さい声に リスフェルは眉をひそめた。 「…私の言ってる事…分からないの?」 器を支える手が離れると ミルクの入った器は 大きく傾いた。 「…あ…!」 「…今は何にも出来ないくせに、独り善がりでみんなに迷惑かけたいのね!?」 「…違う…。」 「どこが違うのっ!?」 今までの不満を爆発させる リスフェルに彼は言葉を失う。 「…みんな…みんな…っ、ベルハウトの事心配しているのに、どうして分かってくれないの!?どうして気付いてくれないのよっ!!」 「リスフェル、落ち着いてください!!あっ!どこに行くんですか!?」 目元に一杯の涙を浮かべ、 リスフェルはウルクの 制止を振り切り走り出した。 明らかに場の空気は重い。 「…意地張り過ぎだぞ。ベルハウト…。」 「…僕、リスフェルを追いかけます。」 「………。」        † 暗いその道をリスフェルは 声を上げながら駆け抜けた。 どうして彼につらく 当たってしまうのか。 様々な想いが 彼女から溢れ出る。 「…何で…何で…、本当は…こんな事…言いたくないのにっ…。」 闇の中で泣き言を吐く少女に 静かな樹海が応じた。 『…本当は言いたかった。お前はあいつが嫌いだ。』 「…!?なっ…何…?そんな事ない…!」 『お前の願いも、想いも何も伝わらない。お前に力があれば、振り向くのに…。』 「やめてよ…!あなたは誰!?」 リスフェルは暗い樹海に 向かって叫ぶ。 その刹那、暗闇が彼女の 華奢な体を包み込んだ。 「きゃああぁぁ!!!」 甲高い悲鳴を虚空に残し、 リスフェルは闇に沈む。 意識を失った彼女は 空色のローブを 身に付けたフィートが さらって行った。
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