~紛い物だから~

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彼女は睨まれて顔を うつむける。 「…ベルハウト、私は私だよ?」 「…リスフェル…素直に…言ってくれ…。」 リスフェルはうつむいたまま、 静かに言い出した。 「…私ね、ベルハウトの力になりたいの。ただ傍に居るだけじゃなくて…、ずっとそのために弓技も剣技も練習してきたの。」 「………。」 「…けど、それじゃだめだって昨日気付いたんだ。今までの努力は無駄だって。」 少女は顔を上げた。 紛い物の笑顔。 悲しくて、悔しくて どう伝えたらいいのか わからないといった表情が 睨みつけるベルハウトを見る。 「…ごめんね。独り善がりは私の方だった。」 笑顔が少しずつ崩れてゆく。 涙を浮かべて、 リスフェルは笑った。 小さく震える彼女の体を ベルハウトは優しく抱き締めた 「…ベッ…ー!?」 「…リスフェル、弓技も剣技も…絶対紛い物じゃない…。俺やみんなの力になってる。」 「…違う、私の努力は紛い物だから…、きっと分かってくれないもん…。」 ベルハウトの腕を振り解き、 リスフェルは半歩下がった。 「…でも…いいもん。私なりに頑張ったから…。」 「…リスフェル?」 ベルハウトが歩み寄ると リスフェルはさらに離れた。 「…ぁ…?」 「…それじゃ、一緒に行きたかったけど…私戻るね。」 二人に開いた明らかな亀裂。 リスフェルは変わったように 走って行った。 「……リスフェル…。」 彼女の異変は 目に見える程露骨なのに、 その先にある心に 触れる事が出来ない。 ベルハウトは開いた溝を 埋める事が出来ずに、 ただただ立ち止まる事しか 出来なかった。
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