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   ようやく茨のもとで眠る少女を発見したアダメは、屈みこんでその頬をつねった。起きなさいというふうに。  すぐに反応があった。少女は豊かな髪をアダメの頭へ突き出して、起きあがる。  起き上がるあいだ彼女はなにも言わない。起き上がり意識がはっきりするにつれて、彼女の頭の位置が徐々に高くなるので、頭上の茨のぎざぎざした葉っぱのしげりに今にもつっこみそうだとアダメは思った。だからアダメは彼女の手を無理矢理包み込むと、自分のがわに引き寄せて立たせた。 「なんでこんなところで寝てたんですか」とアダメはいう。  問われた少女はアダメの喉もとを見ながら、黙っていた。最初から返事をするつもりはないようだった。人と違ったことをする人間は最初から、自分が特別だと思っているんだよね。アダメは少女の顔を見ながらそう思った。その嫉妬ともいえる気持ちがあったからこそ、彼女の黒髪にごく小さな葉の一枚がついているのを見てもあえてアダメはとってやらず、指摘もしなかった。
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