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地上に風が降りてきて、アダメの髪をさらい、草原の草や実をなでた。目を離すと少女はまたそこを寝床と決めてしまったみたいに茨のしたに戻る気がしたので、アダメは彼女を見つづけていた。
「歩けます?」
とアダメは問う。しぶしぶといった感じに少女はうなずく。
「じゃあ歩こっか」お家に帰りましょう。ところが、アダメのやさしく作った声音に反抗するように、少女はぽつねんと立ったままだ。アダメはまた少女の顔を見て、きく。
「どうしたの」
「名前」名前?
「あなたの名前なに」
アダメは彼女が初めて喋ったのにたいして思うこともなく、ただ「アダメだよ」とこたえた。
少女はなんともいえない顔をした。変な名前だとでも思っているのかもしれなかった。あるいは、名前の響きなどはどうでもよく、ただアダメの名前と顔を覚えようとして、顔のほうが勝手にとった表情なのかもしれない。どちらにしても、それがどちらを意味するかはわからない。
アダメが今度こそ歩きだそうとしたところで後ろから「わたしの名前はイヴよ」という声が投げかけられ、その声はアダメの背中にぶつかった。アダメは丈の高い草をかきわけながら「知ってるよ」と振り向きもせず返事をした。
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