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 アダメが頼まれた仕事は夜遅くにバルトにたたき起こされた末に一も二もなく、承知させられたものだった。行方不明の少女を見つけだして、連れ帰るようにというその仕事は最初から漠然としていた。  まず、その行方不明のイヴという少女は夜遅くに姿をくらましても、こそこそと捜索を依頼されるほどにしか心配されていないらしい。どこに住む、だれの娘なのか、少なくともアダメのがわには情報といえるものはなかった。  だが少女の行方に関する情報はすぐにアダメのもとに飛びこんできた。少女が草原に入ってゆくのを見た、という情報をアダメに提供した酒場の客に、アダメは丁寧に礼を言った。すると、そのべたべたした頭髪の男の客は今度いっしょに服でも買いに行こう、とアダメにデートを迫るので、アダメは早めに会話を切り上げるため、アダメはその場は「わかりました」といわざるをえなかった。もし男の言葉の中に「今度」という曖昧さを意味するものがなく、具体的な日時を示すものがあったならアダメは男の言葉を承諾するどころか無視して、店を出ていただろう。  出口へ階段を駆け登ったその細い足を男の客は愛おしそうに見送っていた。早く眠りたい一心でアダメは走った。
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