PH: EP1

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包帯が巻かれた胸を見て、手を当てる。別段傷が痛むこともないし違和感もない。もう包帯をとっても十分に動けるまでに回復しているとは思う。人間にしては気持ち悪い自然治癒だが、事実だから仕方ない。 「ほら、ベッドに戻りましょう。傷が悪化してからじゃ遅いんです!」 「え? いや、大丈夫だが……」 「大丈夫じゃありません!」 手を引っ張られて、凄い力で私の身体は引きずられていく。踏ん張りを効かせることはせずに黙って引っ張られることにする。 「待て、一人で歩ける! 引っ張らないでくれ、転ぶ!」 「貴方、逃げそうで怪しいから離しません!」 別に逃げる理由なんてないのだが。しかも、私はそんなにに怪しい外見をしているのだろうか。 先程のように一人で歩くことが出来るのに、手を離してくれない。そのまま逆らうことなく、づかづかと階段を降りていく。此処で一度くらい転んだって、可笑しくないのだが。 引っ張られる私の後ろから、青髪の少女が心底面白そうな顔を浮かべて、着いてきている。 「レミリアお嬢様は、先にお部屋に戻っていなさい」 その言葉を聞いた瞬間に、表情は一気に不機嫌そのものになった。 「えー、何で! ちょっとくらいお話させてよー!」 「駄目です。この方はゆっくり休ませてあげなければなりません」 「うー! また勝手な行動しちゃうぞー!」 「もしそのようなことがあれば、今晩のディナーのメニューが大変なことになりますよ?」 「う゛っ……」 何を思い出したか、少女は苦い者を口に含んだような顔になる。その大変なこと、とやらがよほどキツいモノらしい。 というか、振り向くことなくさらっと台詞を述べるこの使用人。扱いに慣れているのだろう。 「……わかったわよ」 明らかに不機嫌そうな少女。お返しのためにか、使用人のこの女性が後ろを見ていないのをいいことに、人差し指を目に当てて、舌を出して挑発した。 「お嬢様、何かしました?」 「へぷっ!? な、何にもやってないもん!」 「そうですか」 この使用人、何者なんだ……。
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