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___午前0時。
夜の帳にせかされながら、テーブルに埋れているラジオのスイッチを押した。
押し甲斐があるプラスチックのボタンがついた、レトロな赤色のラジカセ。
お決まりの周波数に乗って流れるのは、脱力するようなスカ調のジングルだ。
『こんばんは。深夜のサブカルフェスティバル、略してサブフェス、進行は鳥海薫です』
うむむ、今日の鳥海先生は一段とボソボソしていらっしゃる。
『この間ね、行ってきましたよ奈良に。もちろん仏像を拝みにね』
うんうん。私も今度、奈良に一人旅してきます。
もちろん、仏像を拝みに。
ラジオを聴きながら、冷蔵庫から缶チューハイを取り出した。
甘くない、ライムのやつだ。
この間出たばかりの新商品で、スッキリとした後味と喉越しの良さが気に入っている。
つまみはこれまた私の中でブームになっている『マメに生きよう』
駅前のデパ地下で売っている、味のバリエーションが豊富な豆菓子。
見た目が可愛いし、値段も手頃だから、気づいたらいつも沢山買っている。
竹籠にストックされたそれらから、カレー味を選ぶと一つ口に放り込んだ。
今日はこの一袋が夕飯代わり。
そんな私は全くもってマメに生きてはいない。
『…………でね、帰りに見つけた竹の籠が、妙にビビッときまして。買っちゃいましたよ。別に、奈良のお土産でもなんでもないのに』
思わず豆が山積みにされた竹籠に目をやる。
鳥海先生とお揃いだ。
いや、竹籠なんて世の中には五万とあるが。
それだけでも嬉しくなってしまうほど私が崇拝している、この鳥海先生という人は、ラジオDJが本業なわけではない。
あらゆる芸術に精通し、様々な分野で執筆活動をしているコラムニストであり、イラストレーターでもある。
その中でも、私が最も影響を受けている分野は…………
『竹籠といえばね、こんな映画がありました。昔々、竹籠を編んで生計を立てていた貧しい家の少女が、ひょんなことから都会へでて、いろんな男性と出会ってくんですけどね、まあ擦った揉んだもありーので。騙されたりもするわけですよ。で、男達に絶望した彼女は、最後、ゾンビ化して次々と男達を襲っていくっていう……はい、お察しの通りB級カルト映画です』
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