719人が本棚に入れています
本棚に追加
実家に住んでいる博美は、ある程度資金が貯まったら、今付き合っている彼氏の憲司さんと結婚するのだろう。
彼とは何度か顔を合わせたことがあるが、外見も恰好良いし、仕事もうまくいっているようだし、何よりとても人柄が良さそうな男性だった。
彼の言動や振る舞いからは、博美のことを本当に大事に思っている事が伝わり、こちらが照れてしまうほど。
そしてその美貌には勿体無いくらい真面目で、彼に対して一途な博美。
こういう人達を正真正銘の勝ち組と呼ぶんだと思う。
これは僻みでも妬みでもなくて、フラットな感想だ。
……そして、かたや私はというと、高校を卒業と同時に家を出た。
都会に憧れを抱いて上京してきたわけで。
デザイン系の専門学校へ通うも残念ながら才能は開花せず、志していた職にはありつけなかった。
だけどそのまま実家に戻ることは私のちっぽけなプライドが許さず、血眼になって就職活動をした結果、現在働いているコールセンターの契約社員で落ち着いた。
テレビショッピング専用チャンネルの、お客様対応、いわば、クレーム担当だ。
バッグが思っていたものと違うだの、掃除機の電源が入らないだのと言った人々の不満と向き合う毎日。
ハッキリ言ってこの仕事、誰にだってできることはわかっている。
この先、何かのスキルが上がったり、手に職がつくわけでもない。
おまけに、いつ切られるかわからない契約社員。
彼氏もいない、結婚の望みも持てない、寂しい独りの生活。
そんな現実を癒してくれたのが、他でもない『サブカル』だったのだ。
今でも忘れられない。
ラジオで聴いた、鳥海先生の言葉。
『物事にはさ、必ず、メインがあればサブがあるわけじゃない。
右があるから左があって。メジャーがあってマイナーがあって。
光があれば影もある。
どっちが良いとか、正しいとかじゃなくて。どっちも必要不可欠だと思うんだよね。
僕みたいな変態がいなかったら、マトモな人が際立たないじゃん。
だから居たっていいと思うんだよね。サブの人も、マイナーな人も。影の人も』
この言葉にどれだけ救われたことだろう。
漠然と、私みたいな出来損ないがいてもいいんだって、安心したのを覚えている。
そういうわけで、それ以来ずっと鳥海先生のファンなのだ。
最初のコメントを投稿しよう!