0 ーゼロー

6/29
前へ
/399ページ
次へ
あたしなんかに一目惚れすることなんかないって思うけど、上田さんは静かにあたしの後ろに立っている。 どうせ惚れられるなら、須藤さんがいいのに…。 そう思って、隣に立つ須藤さんを視線だけでそっと見上げた。 背、高いなぁ…何センチあるのかな。 180は軽く超えてそう。 鼻もスッとしてて、唇は品がいい。 男の人ってなんで睫毛がこんなに長いんだろう。 マスカラとかで痛めつけないからかなぁ。 須藤さんっていくつなんだろう。 肌がとても綺麗。…あ、顎の下に小さなホクロ、見つけた。 じっと見つめるわけにもいかないから、何回かに分けて見上げては須藤さんの外見に見入る。 途中階でエレベーターが止まって、他の会社の人も乗り合わせた。 押し込められるままに、周りに気を遣いながら、1歩2歩と下がって、須藤さんの背中を眺める位置に立った。 自然と混雑する箱の中。 東京の通勤ラッシュみたいだな…。 仲間同士、小声で話し続ける人、エントランスまで無言を貫く人。 ……えっ?! あたしの右手をそっと繋ぐ誰かの手。 限られた空間で起こった突然の出来事に、呼吸を忘れそうになる。 あたしの右手には、プラチナ付きの左手が絡まっていた。
/399ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5346人が本棚に入れています
本棚に追加