0 ーゼロー

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ヴーッと低い音が、車内に響く。 乗ったことのない、右側の席。 「素敵なお車ですね。」 マニュアル通りの言葉しか出てこない自分に、ちょっと嫌気がさすけど車に詳しくないから仕方ない。 「ありがとうございます。この車に女性を乗せるのは、沢井さんが初めてですよ。」 「えっ?!」 それって、どういう意味ですか? 失恋明けの今のあたしには、そういう言葉は、刺激が強過ぎて…。 「それとも、他のメンバーがお送りした方が良かったかな?」 「そうじゃなくてっ。」 「じゃあ、僕で良かった?」 肘を突いて片手でハンドルを切る須藤さんの横顔は、どこか危険な香りがする。 いつの間にか、言葉もフランクになってきていて。 須藤さんで良かったです。 須藤さんが、良かったんです。こんなシチュエーションになるなら。 って、言えたらいいのにな。 「……っ。」 とあるお店のパーキング。 バックで車を停める須藤さんの顔が、グッと近付いた。 昔のトレンディドラマでありそうな、よくあるシーン。 こんなの見飽きて、聞き飽きて辟易してるのに、相手が違うとこんなにときめくものなのか…。 「着きました。どうぞ。」 外からドアを開けて、手を添えてくれるジェントルマン。 お店の引き戸も、そっと開けて先に通してくれる。 「そう言えば、沢井さんはお酒強いですか?」 「程々です。強いとは言えないと思います。」 皆さんがいる個室の少し手前。 ヒールを履いていても、それでも届かない高さから、あたしを優しく見る視線にクラッとしそう。 「分かりました。飲み過ぎないように、お互い楽しみましょう。」 背中にさり気なく添えられた掌が、行先を示してくれた。
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