0 ーゼロー

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「遅くなりました…。」 「もー先に始めちゃおうかと思ってたよー?」 上田さんが元の調子に戻ってくれたみたいで、場の雰囲気も和やかになっていて。 あとは、あたしが平常心を取り戻すだけか…。 「っていうか、何してたの?蒼(あおい)ちゃん。」 あおいちゃん? 「だから、名前で呼ぶなって。 何もしてないよ。ただ一緒に車で来ただけ。 ね、沢井さん。」 「あ、はい。ありがとうございました。」 ね、って言いながら微笑む須藤さんのせいで、また平常心が遠退いていった。 「沢井さん、赤くなってるー!須藤、絶対何かしただろ?! あの車に乗せること自体、怪しいって。」 上田さんに便乗して、大井さんまで…。 「何もないって。もういいから、早く飲もう。」 空いている座布団は、2つ並んでいてほしかったけど…。 1つは、奥の列の中央に設けられた、こっちの課長の席の隣。 もう1つは、テーブルを挟んだ上田さんの3つ隣。 ここは社会人として、課長の隣に座るのが筋だよね…。 もっと須藤さんと話したいのに。 何もなかったのは、須藤さんだけで、あたしにとっては何かあった、ここまでの時間。 「あ、そうだ、渡すの忘れてた。」 和食屋さんならではの格好をした店員さんが、瓶ビールや前菜を次々と運んでくる中、須藤さんの後ろを通って、課長の隣へ向かうあたしは引き留められた。 「須藤 蒼です。バタバタしてうっかりしてました。」 「あ、先にいただいてすみません。あたしも…。」 バッグの中から、名刺入れを出す手が震えている。 「沢井 千紗です。よろしくお願いします。」 あたしの名刺を須藤さんが受け取った瞬間、僅かに触れた指先に、電流が走った。
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