マイナス、1

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航太は、自分の言いたいことをハッキリ言わない。 今みたいに、濁して断定しない。 ずっとそうだった。 どこに行きたいか聞いても、何を食べたいか聞いても。 「千紗の好きなところでいいよ。」 「千紗の好きなもの食べよう。」 ……って。 あたしは、航太の答えを聞いているのに。 友達に紹介された時、『航太は相手を傷付けないように気を遣うヤツなんだよ』って言われたっけ。 そう?すでに傷付いてますけど。 バッサリ『別れて』とは言えるのに、悪者になりたくないから言葉を選んでるだけじゃない。 ただの、自己防衛。 こんな男に、1年間費やしたと思うと、フラれる理由なんて本当にどうでもよくなった。 「もういい。別れよ。じゃあね。」 あたしを引き留める航太の声なんか、耳に入らない。 入ってても、知らない。 最低だ、2人とも。 本当に航太のことが好きだったら、こんなに冷めた気持ちにならないはず。 航太も、あたしのことが本当に好きなら……あんなに自分を正当化しない。 ちょうど青信号になった横断歩道を、ヒールを鳴らして進んでいく。 まだ泣くのは早い。家のドアを開けるまでは泣かないんだから。 下唇をキュッと噛んで、地下鉄の入り口へ吸い込まれるように階段を下りる。 2人とも、自分が好きなだけだった。 2人とも、恋をしたいだけだった。
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