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「シュッとしたお兄さん、あたしとも撮ってください。」
「やめろよ、真似するの。」
彼の困った笑顔が大好きだ。眉尻が少し下がって、目元がくしゃっとなる。優しさがにじみ出たような甘さに、あたしは溶かされたくなる。
「……こうしたら、海も写るか?」
自撮りモードに設定した携帯をかざし、彼がそれを持ってくれている肩に頭を乗せて、お互いの顔を近付けた。
「……うん、いい感じに撮れたね。」
肩を寄せ合って確認する画面。返事をするのに彼を見たら、何の前触れもなく短いキスをされて、あたしの瞬きが速くなった。
もう、甘えたい。我慢なんかしなくていいんだもんね。
繋いでいた手を自分から解いて、彼の腕に巻きつくように絡んで歩く。時々見上げる彼の顔には精悍さもあって、口角の上がった唇はいつでも触れたくなる。
人気のない岩場まで下り、近くで海を眺める。
一層強くなった海の匂いは、夏の思い出を濃くしていく。
「須藤さん。」
「ん?……あ、そこ危ないからゆっくり進んで。」
岩の隙間をまたぐだけでも、大切に扱ってくれる彼の優しさがじんわりする。
「……蒼って、呼んでいい?」
「当たり前だろ?いつまで須藤って言われるのかと思ってたくらいだよ」
行き着いた大きな一枚岩の上で、ギュッと抱きしめてくれた彼は、夏の日差しに負けないくらい眩しい笑顔を見せてくれた。
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