矢印が動くとき

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「実は、このまま働くか他社に行くかで迷っているんだ。」 「他社って、どこですか?」 「……里花の実家。彼女は一人娘だったから後継者がいなくて困っていて……いま会長を務めている彼女の父親は、里花のことは切り離して考えてほしいって頼まれていて……それで、ずっと悩んでいたんだ。」 ……里花さんの実家に勤めるとなれば、間違いなく関西に住むということだろう。そしてあたしとはこのまま遠距離だ。噂ではそろそろ本社に須藤さんが戻ってくるんじゃないかという話もあったから、どこかで期待していたものがしゅんと萎んでしまった。 「もしその話を飲むとなると、俺はその会社を継いで守っていくことになる。もちろん里花の家に入るとかそういうことはないけど、切っても切れない関係になる。……それでも、俺と一緒にいてくれるか?」 「……。」 すぐに答えは返せなかった。返すべきではないと思った、のほうが正解かもしれない。勢いに任せるようなことでもないし、事実この状況がなくなるのがとてもイヤだと思ってしまった。 会ったことのない里花さんの過去に縛られていたような半年間を乗り越えて、やっと掴んだ恋なのに……。
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