矢印が動くとき

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「千紗の気持ちは分かってるつもりだよ。絶対にいい気はしないだろうし、そうとなれば今の関係が変わらなくても距離は縮まらない。会いたい時に会えないし、お互いに心配することもある。……だけどね、俺はチャンスを逃すのが嫌いなんだ。ワガママを言うようだけど、男だからっていう理由づけもしたくないけど、でもこんな話は2度とないんじゃないかって思う。」 「蒼は……やっぱりその地位を手に入れるために里花さんといたの?」 京から聞いていたことが引っかかるんだ。偽物の愛を向けていた過去があるから、あたしへの気持ちも信用できなかった。 「……そうだね、そう思われても仕方ないと思うよ。最初は彼女に興味を持った。だけど、彼女の父親に会ってこの話をもらって、別の頭で動いている自分もいた。」 「そう……。」 否定されなかったのが辛いということでもなく、本当のことはやっぱり本人にしか分からないのだと知った。 「里花さんのこと、好きだった?」 「もちろん。とても綺麗な人だし、一緒にいてよかったと思ってるよ。」 「……本当に?」 「うん。彼女のくれた愛情とは比べられないけど、でも、ちゃんと気持ちを向けていた時期もあった。最初から最後まで適当な気持ちしか持ち合わせていなかったわけじゃないよ。」
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